動画「写真は語りかける」趣旨と授業活用例

動画作成趣旨

広島・長崎への原爆投下から78年が経ち、体験を語る被爆者の高齢化とともに、語り手と受け手とのギャップはますます大きなものになりつつあります。とりわけ若い世代にとって、被爆者が語る「当時の暮らし」と、自分たちの「今の暮らし」は大きく異なるものであり、被爆者の語りが遠い昔の歴史のように現実味のないものとして受け止められる原因となっています。

こうしたギャップを埋めるものは、78年を経ても変わらない人間性です。家族や友人と過ごした大切な時間、将来への希望や夢…生活環境は大きく異なっていても、豊かな感情を持つ同じ人間であるという点で、被爆者も今を生きる若者も何ら変わることはありません。原爆について学ぶ若者たちが、被爆者も自分たちと同じ一人の人間であり、愛するものがあり、当たり前の日常を送っていたとの気づきを得ることは、被爆者の体験に自分自身を重ね合わせ、その思いに寄り添うことを可能にします。それは、かけがえのない日常を一瞬にして破壊する原爆の非人道性に対する認識を深める上で不可欠な基盤となるのです。

動画教材「写真は語りかける」は、被爆前の長崎で撮影された写真を多用することで、当時の人々の日常を鮮やかに描き出し、それとの対比で原爆の悲惨さを伝えることを目的に作成しました。動画に登場する被爆前写真のほとんどは、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)と国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館の呼びかけに応えて、日本全国から寄せられた約6千枚(2022年2月現在)の写真の一部です。2団体は協力のもと、「被爆の実相の伝承」のオンライン化・デジタル化事業を進めており、その一環として、被爆前の長崎の街並みや人々の暮らしがわかる写真の募集を2021年7月に開始しました。

ロングverについて

長崎に実在した「ある家族の物語」であり、写真の寄贈主である「嘉宏(よしひろ)さん」の一人語りという形をとっています。戦後生まれの嘉宏さんには「会ったことのない」兄姉がいます。当時の家族は祖父母、父母、5人の姉、2人の兄の11人であったが、1945年8月9日の原爆は父と一人の姉を除く家族の命を無残にも奪い去りました。戦後父は再婚し嘉宏さんが生まれたが、その父も姉も鬼籍に入った今、当時の家族の思い出を語るのは、父が趣味として撮っていた数多くの写真のみ、というストーリーです。

授業における活用

本動画教材は、中高生から一般まで広く視聴可能な内容となっていますが、とりわけ大学生を対象としたさまざまな教育現場で活用していただきたいです。冒頭述べたように、若い世代にとって、被爆者の語りはますます彼らの日常感覚からは遠いものとなっています。本教材を広島・長崎の被爆者による証言を聴く、原爆文学を読むといった学びと組み合わせたり、被爆地でのスタディツアーに向けた事前学習として本動画を視聴したりすることによって、若者世代の共感を呼び起こし、より効果的な学習を行う一助を担えれば幸いです。動画の感想をシェアすることで、学生同士が意見交換することも有益な学びとなるでしょう。

日本の大学では、核兵器問題が国際政治学や国際関係論などの講義において歴史的あるいは理論的文脈を中心に扱われることが多く、在広島、長崎など一部の大学を除いては核兵器の非人道性に焦点があてられることは少ないのが現状です。そこで、たとえば15回の講義の初回において本動画を視聴することによって、核兵器が人間に何をもたらすのかという視点を一人ひとりの学生が心に刻みつつ、現実世界の核兵器問題に向かうことができると考えています。また、本動画には英語のサブタイトルが付いているため、多様な国籍の学生が参加するディスカッションの材料としても活用いただけると幸いです。

授業活用例

以下は核兵器問題について初めて学ぶ大学生1・2年生を想定した90分授業での活用例です。

  1. 講師によるイントロダクション(5分)
  2. 動画教材「写真は語りかける」視聴(約10分)
  3. 動画の感想・気づき・疑問等についてグループ・ディスカッション(10分)
  4. 全体での共有(10分)
  5. 現在の核兵器問題について講義(40分)
  6. 質疑応答(15分)

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